「翼の翼」|朝比奈あすか|リアルな描写が話題の本作の感想と学び

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翼の翼レビュー
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本作を読もうと思ったきっかけ

長男の通う公文教室の指導者の方に勧められて翼の翼を読むこととなりました。

本作のテーマ

中学受験における親と子の心の葛藤と中学受験の光と闇がテーマだと感じました。

本作を読んで得られるもの

中学受験中の子供の成績の変動による保護者の心情の移り変わりを自己投影することで、中学受験を検討している保護者の方々はこれから自分の中に芽生えるであろう感情を予習できると思います。

予習することで感情を制御し、子供の心を傷つけるのを回避できるかもしれません。

また本作では保護者が子供の何を見ているのかについても焦点が当てられています。

読まれた方々が、今現在子供自身そのものを見ているのか、それとも子供の能力しか見れていないのか、ある種の踏み絵のような感じがしました。

現在の子供に対する接し方を見直すいい機会を与えてくれると思います。

著者のプロフィール

・著者・・・朝比奈あすか、1976年、東京都生まれ

・慶応義塾大学文学部卒業

・2000年の大伯母の戦争経験を記載したノンフィクション作品「光さす故郷へ」を発表

・著者の作品は中学校の試験問題に出題されることが多く、「国語入試頻出作家」の異名を持つ

本作で初めて著者の作品を読みました。激しい心情描写には大変読み応えがありました。

これを機に他の作品も読んでみたいと思える小説家でした。

本作の概要

本作は全3章で構成され、本作の主役である翼の年齢が第1章は8歳、第2章は10歳、第3章は12歳となっています。

たまたま受験した塾のテストで非凡な才能を見せ、大手塾の指導者の目に留まる翼…。

それに対して過度な期待を抱いてしまう母親円佳…。

自身も中学受験を経験し、自分の勉強指導に絶対の自信がある父親真治…。

登場人物の概要を簡単に記載しただけでも、年齢を追うごとにどんどん翼が追い詰められていくのではないかと容易に想像できるのではないでしょうか?

実際作中で翼はどんどん精神的に追い詰められていき、異常行動が常態化し、最終的にあり得ない行動を取ってしまいます。

また、父親の激しい追い込みや発言が家族全体をどんどん窮地へと追いやっています。

このような惨状を著者の繊細かつ大胆な心情描写が鮮やかに描き出す本作となっています。

特に本作の最後で母親である円佳が父親の真治に対し、溜め込んだ思いを吐露する場面は圧巻です。

本当に手遅れになる前に翼を守ったのではないかと思います。

ネタバレになるのでこの辺で留めておきます(笑)

参考になったポイント

個人的に本作を読んで参考になったポイントについて記載したいと思います。

中学受験の光と闇

子供の成績が良いときと悪いときの親の描写が細やかに描かれております。

目の前のテストに一喜一憂するのは愚かだと思っていても、自分の子供が良い成績を取ったら親としては浮かれてしまうものです…(^^;

しかしそれを繰り返していくと子供は良い点を取って親を喜ばせることが目的化してしまい、自分のために勉強をしなくなります。

本作の翼も最初は純粋な知的好奇心から勉強に励んでいたと思われますが、周囲の大人達がその翼を変えてしまったと思います。

特に父親の真治の父と母、つまり翼の祖父母は学歴至上主義を絵に描いたような典型的な人物であり、孫の興味がある水泳などには一切無関心だったので「少しは興味持ってやれよ」と思わずにはいられませんでした(^^;

父親と母親の子供に対する接し方

父親の真治は中学受験経験者、母親の円佳は中学受験未経験者ということで、家庭内でバランスの取れた子供に対する接し方ができるかなと期待しましたが、どちらも中々にねちっこい性格の持ち主…(^^;

翼のためを思ってのことだとは思います。

しかし、これでは子供が自らのために勉強しようという気が起きなくなるだろうなと思いました。

甘やかすのは違いますが、ねちっこく責め続けるのも間違いだと思います。

このバランスの取り方に世間の保護者の方々は悩むんでしょうね(^^;

他人事ではないですね(笑)

人間の腹黒い部分の解放

以下は本作のワンシーンです。

しかしながら、小学校の授業やテストでは、中学受験の世界での学力など見えやしない。そのことが良く分かった。まさか翔太が、入塾基準に達しない程度の実力しかなかったとは。笑みを堪える円佳の真ん前で、貴子は暗い面もちを浮かべ、言う。

朝比奈あすか, “翼の翼”, 光文社, 2021, p188

翔太とは翼の友達であり、貴子は翼の母である円佳の仲の良いママ友です。

一見仲良さそうにしていても、人間腹の内までは分からないものですよね…(^^;

翼は進学塾でもトップのクラスに在籍し、進学塾のテストで上位の優秀者を集めた大会に出たりと円佳にとっては誇らしい存在だったのでしょう。

しかし、その優秀な翼をだしに他者を見下すのは違うと思います。

母親の円佳の努力のおかげで翼の成績は成り立っているのは事実ですが、その成績は何のために維持しているのか考えれば、他者を見下すような姿勢を取るようなことは無いと思います。

人間は自分が絶対的に優位で安全な立場にある時に、他者に対してどう振舞うかで価値が問われるのではないかと思うときがあります。

おおたとしまさ氏の「勇者たちの中学受験」でも同様に人間の腹黒い部分が解放された描写があります。

もしよろしければこちらのレビュー記事もご参照ください。

コンコルド効果の恐ろしさ

本作を読む前から聞いたことはありましたが、元々は投資の継続が損失になると分かっていても、投資した時間やお金を取り戻そうと投資がやめられない状態をコンコルド効果と言います。

株やFXで損切が大事と言われる理由ですね(^^;

中学受験に費やした時間や費用をもったいなく感じ、引き返せなくなる心理状態の恐ろしさを再認識しました。

中学受験は単年ではなく複数年に跨る長期戦ですし、費用も決して安くありません。

長男の小学校受験を経験しましたが、費用も時間も比較にならないと思います。

時間や費用だけの損失ならまだしも、最悪の場合子供の心まで壊しかねません。

「中学受験の損切」も必要だと感じました。

小学校受験の費用についてはこちらの記事を是非ご参照ください。

本作を今後どう役立てたいと思ったか

本作を今後我が家でどう役立てたいかを下記にまとめてみました。

中学受験は通過点として考える

我が家では中学受験も現段階で視野には入れておりますが、絶対受けようと確固たる意志があるわけではありません。

子供の成長は個人差がありますから、早熟で中学受験の勉強にも耐えうると判断できたら受験させようかなとも考えています。

中学受験で偏差値の高い中学校へ行くことは後々の人生の選択肢を広げてくれるので、入れるに越したことはないと思います。

ただし、学歴で考えると大学(理系の場合は大学院も)が最終学歴になりますので、長期的な視点を持つ必要があると感じています。

もっとも人生で考えたら学歴よりもその後の社会人生活の方がずっと長いんですけどね(^^;

中学受験で希望通りいかなかったからといって、この世の終わりのような顔をしている方を見かけることがありますが、もっと先を見てはいかがでしょうかと声を掛けたくなります。

ましてや親が絶望していたら子供は敏感に感じ取ります。

それだけは避けたいところです。

子供のためと言いつつ保護者のためになっていないか考える

本作ではこんな悲痛な言葉があります。

ママだって!俺が!いい学校にいったら!見栄張れるから!どうせそれで受験!受験!させようとしたんだろう!!

朝比奈あすか, “翼の翼”, 光文社, 2021, p235

これは母親の円佳が見るのを日課にしていた受験ブログの中の子供の言葉です。

小学生とはいえ親がどう考えているのか子供は敏感に感じ取ります。

子供のためと言いつつ保護者のために行動していることは、子供に見透かされていると思ったほうが良いでしょう。

迷ったときは子供と十分話し合う機会を設けようと改めて思いました。

比較することの無意味さを自覚する

本作ではママ友の子供や同じ塾生との比較をしている描写が多くあります。

また、翼の父方の祖母は作中では終始翼と他者との比較をしていました。

その比較で一時の優越感を得ることに一体何の価値があるのでしょうか。

中学受験でよりよい環境で学ぶことは人生における選択肢を広げるための一手段でしかないと思います。

その過程での比較は人生を振り返った時に一体どれほどの意味を持つのでしょうか。

私も分かっていても目の前のことに一喜一憂してしまうことはありますが、子供には長期的な目線で物事を考える力を養ってもらうと同時に、些末な比較に価値が無いことを認識してもらいたいと思いました。

読んでもらいたい人

読んでもらいたいのは以下の方々です。

・中学受験を考えている保護者

・中学受験中で家庭内不和が起きている方々

中学受験を考えている保護者

本作は描写がリアルですので感情移入がしやすいと思います。

本作の登場人物とご家族を重ね合わせ、中学受験で起こり得る様々な辞退を想定してみるのも良いかもしれません。

ビジネスの世界では当たり前ではありますが、常に最悪の事態を考えて行動し、中学受験における各ご家庭の最悪の事態とは何かを考えてみてはいかがでしょうか。

最悪の事態を避けるための行動を取り続ければ、各ご家庭における中学受験の望ましい結末への確率を向上させられるかもしれません。

言うのは簡単ですけどね(^^;

中学受験中で家庭内不和が起きている方々

本作の最後の方は中々に壮絶な描写が多く、これ中学受験の本だよね?と思いたくなるシーンもありました(笑)

中学受験がここまで人を変えるのか…という風にも思えました。

「勇者たちの中学受験」でも家庭内不和の描写はありましたが、本作の描写の方が過激だと思います。

本作には家庭内不和を回避するためのヒントと、家庭内不和から回復するためのヒントが散りばめられていると個人的には感じました。

まとめ

本作は親子の心情描写がリアルで小説として非常に読み応えがありました。

中学受験で壊れゆく家族を見るのは他人事とは思えず、読み終えたら何とも言えない気持ちになりました。

私が本作で参考になったポイントは下記の点についてです。

・中学受験の光と闇

・父親と母親の子供に対する接し方

・人間の腹黒い部分の解放

・コンコルド効果の恐ろしさ

また、今後本作をどう役立てたいかは下記の点についてです。

・中学受験は通過点として考える

・子供のためと言いつつ保護者のためになっていないか考える

・比較することの無意味さを自覚する

本作は小説ではありますが、中学受験期のご家庭には響くものが多くあるかと思います。

保護者の方々の振る舞いを見直す良い機会を与えてくれると思います。

本レビューが少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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