【おおたとしまさ】「勇者たちの中学受験」を読んだ小学生の保護者の感想

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勇者たちの中学受験レビュー
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本作のテーマ

「中学受験における親子(主に親)の心の葛藤を描き、その葛藤及び中学受験の結果から得られる教訓とは何か。」が、勇者たちの中学受験のテーマだと私は考えました。

本作を読んで得られるもの

一言でいうならば、「中学受験と向き合う保護者の心構え」が得られると考えます。

特に保護者目線での描写が多く(と言うかほとんど保護者目線で一部子供の心情有り)、保護者として中学受験にどう向き合うべきか、中学受験をどう乗り切るべきかを考えさせられます。

偏差値のみを中学受験の羅針盤代わりにしている人は視野が広がる可能性があります。

著者のプロフィール

  • 著者・・・おおたまさとし、1973年、東京都生まれ
  • 麻生中学・高校卒業、東京外国語大学英米語学科中退後、上智大学英語学科卒業
  • リクルートから独立後、育児・教育媒体の企画編集の従事
  • 執筆活動(著書70冊以上)、講演、メディア出演等幅広く活躍中
  • 中学、高校の英語教員免許及び小学校英語指導者資格保有
  • 私立小学校の英語非常勤講師の経験有り。

著書70冊以上を超える著者が詳細な描写を描き、リアルな中学受験期の保護者の心情が伝わってきました。

これは筆者の長年の経験と細やかな取材があってこそだと思います。

本作の概要

本作は3組の親子のエピソードを3部構成で描いています。

実際の目次は受験生の名前になっており、下記は私が個人的にエピソード名を付けてみました。

ネタバレを避けるために内容は必要最小限に留めておきます。

①父親が中学受験を頑張りすぎた受験生のエピソード(アユタ)

他の2つのエピソードと異なり、このエピソードだけが父親を中心に描かれています。

この父親は中学受験のために色々と中学受験に関連する本を読んだり、エクセルで息子のスケジュールを管理したりとかなり熱心に取り組んでいました。

全ては息子のためと思い、よりよい環境へ息子を導くための努力を惜しまなかった人だと思います。

しかしながら、最後の最後で自分と息子の考え方の違いを突きつけられてしまいます。

②前評判最強の受験生のエピソード(ハヤト)

受験前の評判は間違いなく抜群であり、塾でも特待生扱いを受けていた受験生のエピソードです。

エピソード中の端々にこの受験生の母親が、自分の息子が特待生扱いであることを鼻にかけていることが窺い知れます。

本受験生は中学受験の最高峰である通称「三冠」、つまり開成、灘、筑波大学附属駒場の合格を目指します。

誰もが予想通りの結果になるだろうと思っていたところ・・・

予想だにしない結末を迎えることとなります。

そしてその結果を受けて母親が自戒するシーンが印象的でした。

③なんとなく中学受験をスタートした受験生のエピソード(コズエ)

親に中学受験を行うかどうかを問われ、なんとなく中学受験を行うことを選択した受験生のエピソードです。

本エピソードの受験生の偏差値は他の2つのエピソードの受験生の偏差値よりは低いです。

しかしながら、中学受験全体を通しての満足度は一番高いように見受けられる描写があります。

特に家族全員で合格に歓喜するシーンが印象的です。

中学受験を通し、偏差値的には困難だと思われる中学校に挑戦し、その挑戦の決断を受験生自身がしたことで、一回り成長したのではないかと思わせるエピソードです。

参考になったポイント

個人的に本作を読んで参考になったポイントについて記載したいと思います。

中学受験期の保護者の心情の移り変わりについて

受験期の日付ごとの保護者の詳細な心情描写が描かれており、中学受験を検討している保護者には非常に有用であると感じました。

「自分にもこんな感情が湧き上がってくるのか」

と予習しておけば感情の制御はある程度可能になるかと思います。

子供との向き合い方について

親のための中学受験になっていないかを痛感させられました。

結局のところ子供を最優先に考えた3番目のエピソードが満足度の高い中学受験になっていたように見受けられました。

小学生でまだ頼りない部分は多くあるかと思いますが、子供自らの考えや決断を尊重してあげることこそが、中学受験における親の本来あるべき姿ではないかと考えさせられました。

塾選びの重要性について

先生が一人しかいない中小の塾が出てきますが、受験期の直前にネガティブな言葉を保護者と受験生に浴びせ続け、受験生の士気を平気で下げるようなことをしていました。

組織で多数の目が無いと、全て自分の行っていることが正しいと思い込む傲慢な人間の典型だと思いました。

また大手塾の場合、合格実績を気にするあまり受験生を平気で罵倒する先生もいました。

本当に受験生のことを考えているのであれば、受験真っただ中の受験生を罵倒するなど言語道断だと思います。

上記のことは塾の規模と言うよりも、先生個人の人間性によるところも大きいとは思いますが、塾選びの際にはやはり先生の人間性を見ないといけないのではないかと感じました。

ただし、人間性を見抜くのは容易ではないため、やはり周囲の保護者や上位学年の保護者の評判は貴重であると改めて感じさせられました。

ちなみに本作では早稲田アカデミー(早稲アカ)、SAPIX(サピックス)、うのき教育学院等の塾名が実名で出てくるところも大変興味深いです。

偏差値至上主義の無意味さについて

2番目のエピソードの三冠を目指していた受験生の母親の作中の言葉を引用します。

受験前がこちらです。

NN開成コースに入れない塾友とその親たちを、はっきりと見下していた。偏差値五〇すらとれない子どもたちの親はいったい何をしているのだと馬鹿にしていた。

おおたとしまさ, “勇者たちの中学受験”, 大和書房, 2022, p.148-149.

受験終了後がこちらです。

偏差値の高い低いで子どもを値踏みし、その親まで評価することの浅ましさを、いま悟妃は痛感している。

おおたとしまさ, “勇者たちの中学受験”, 大和書房, 2022, p.149.

このように180度考え方が変わっていることが分かります。

この母親の場合、もし自分の息子が三冠を達成していたらより一層激しいマウントを取りそうではありますが・・・。

結局のところ3つのエピソードを通し偏差値的には一番低い子が、一番満足感ある中学受験だったように見受けられました。

偏差値はあくまで目安であり、中学受験の先に子どもが何を得るかまでを考えなければならないと思いました。

本作を今後どう役立てたいと思ったか

本作を今後我が家でどう役立てたいかを下記にまとめてみました。

大局的に子供の人生を考える

中学受験は人生の大きな決断の一つであることは間違いないとは思いますが、中学受験は通過点に過ぎないです。

我が家の息子にはバックキャスティングにより自分の将来ありたい姿をイメージさせ、今何をすべきか、この先どのような道を進むべきかを自分で考え、選択できるように親として導いてあげなければいけないと思いました。

子供は親の自尊心を具現化するための道具ではない

2番目のエピソードでは端々に母親の他者に対するマウントが感じられました。

その一例としてこんな文章がありました。

下のクラスの子どもたちの授業料で、ハヤトの成績は維持されている。できる生徒がさらに厚遇され、どんどんできるようになっていくということ。へぇ~、世の中はこういうしくみなんだ~と、妙に納得した。

おおたとしまさ, “勇者たちの中学受験”, 大和書房, 2022, p.75.

優秀な息子を自慢に思い、他者に対してマウントも取りたくなることでしょう。

しかしそれで得られるものとは何か?

私には一時の優越感しかないと思いました。

そんな優越感に浸っている暇があるなら子どもの将来について考えたほうがよほど有益です。

親は親、子どもは子どもで別人格であることを理解し、「優秀なのは息子であって自分ではない」ということを受験前に認識できなかったこの母親は残念としか言いようがないです。

私はこのエピソードから自分の子どもを誇ることはあっても、何があっても自分の子どもで他者に対してマウントを取ることは絶対しないと強く思いました。

読んでもらいたい人

読んでもらいたいのは以下の方々です。

  • 中学受験を検討している保護者
  • 小学校の先生
  • 塾の先生
  • 中学受験を迎える受験生

以下に読んでもらいたい理由を記載してみました。

中学受験を検討している保護者

本作は実話を基にした創作であり、保護者目線の描写は今後体験するであろう感情そのものを事前に体験できるため有用だと考えます。

つまりどういう感情が湧き上がるかを事前に学んでおけば、感情の制御がしやすくなると言うことです。

中学受験を起因とした親子関係の悪化や家庭内不和を回避するためにも、感情の制御は重要だと考えます。

また、中学受験とどう向き合うか、子どもとどう向き合うかを今一度再考するためにも是非お読み頂きたいと思います。

小学校の先生

小学校の先生の中には中学受験に否定的な方もいらっしゃるということをしばしばお聞きします。

しかしながら、中学受験を志す親子がどのような思いで中学受験に立ち向かっているのかその理解の促進に繋がればと思います。

塾の先生

塾による差が大きいとは思いますが、塾にとっては宣伝材料程度にしか考えていない合格実績一つ一つも、中学受験を志す親子にとっては人生の大きな決断の一つとも言えます。

親子の心の葛藤や精神的苦痛を知れば、安易で強引な志望校の変更も思い留まるのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、全ての塾及び塾の先生に当てはまるとは考えておりません。

中学受験を迎える受験生

本作のほとんどは保護者目線ですので、少しでも保護者の心情を知ることができれば親子間の不要な関係悪化を避けられると思います。

ただし、小学生が読むには内容的にも分量も重いかもしれません。

まとめ

本作は非常に描写が細やかで一気に読み進めてしまいました。

実質2日ぐらいで読破してしまいました。

私が本作で参考になったポイントは下記の点についてです。

  • 中学受験期の保護者の心情の移り変わりについて
  • 子供との向き合い方について
  • 塾選びの重要性について
  • 偏差値至上主義の無意味さについて

また、今後本作をどう役立てたいかは下記の点についてです。

  • 大局的に子供の人生を考える
  • 子供は親の自尊心を具現化するための道具ではない

読まれた方の立場や考え方で本作をどう受け止めるかは千差万別であり、どのような受け止め方が正解かは無いと思います。

本レビューが少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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