Yahoo!ニュースを見ていたら同日に3件の体罰関連のニュース記事が掲載されておりました。
体罰の概要は以下です。
・気持ちが浮ついていると見られるという理由で女子バレーボール部員の前髪を切る
・空手部でうさぎ跳び250回&生徒を平手打ち
・小2男児にヘッドロック&逆さづり。当初学校側は指導の範囲として調査せず。
体罰に対してだいぶ厳しくなったと思ったのですが、同日に3件も体罰関連のニュースを見ることになるとは思いませんでした。
学校教育における体罰の禁止は明治時代の「教育令」にまで遡ることになります。
しかし何年経っても体罰は無くなりませんね…
本記事では体罰の定義、体罰の判断基準、体罰禁止の理由等についてまとめてみました。
体罰のニュースについて
同日に体罰関連のニュースを3件も見ることになるとは思いませんでした。
以下体罰のニュース概要についてまとめてみました。
女子バレーボール部員の前髪を切る体罰
こちらの体罰は長野県にある東京都市大学塩尻高校の女子バレーボール部で起こった体罰になります。
東京都市大学塩尻高校の女子バレーボール部は、全日本選手権に5年連続で10回出場している強豪校です。
体罰自体は2022年の下旬に行われたようです。
体罰の経緯としては監督(教諭)が「髪を気にしていると浮ついてみられる」と発言したことから、部員のうち数人は美容院で前髪を切ったそうですが、他の切らなかった部員に対して部長(教諭)がハサミで部員の前髪を切ったようです。
監督も部長も両方とも教諭でありながら、なぜこのようなことが起こったのかが理解できません。
髪を切るという行為は、他者の身体に対する有形力の行使とみなされて暴行罪に問われる可能性があることを認識していないのでしょうか。
そもそも「髪を気にしていると浮ついてみられる」っていつの時代なんでしょうか…。
強豪校ってどこもこんな感じなのでしょうか?(他の強豪校の方々に失礼か)
いくら強豪校だろうと指導を建前にして法を軽視する教諭は淘汰されてほしいです。
【独自】女子選手9人、教諭に前髪切られる 都市大塩尻高バレーボール部で指導の一環
— 信濃毎日新聞デジタル (@shinmaiweb) April 28, 2023
記事はこちら⇨https://t.co/onYQPtEBdi
前髪より「勝つことに集中しろ」と指導
うさぎ跳び250回&平手打ちの体罰
こちらの体罰は高知県の明徳義塾中の空手部で起きました。
体罰は2020~2021年の間に起きたようです。
空手部の男性監督(教諭かどうかは不明)が部員にうさぎ跳びを命じたり、特定の部員に平手打ちをしていたそうです。
体罰じゃなくて暴行や傷害で逮捕すべきではないのでしょうか。
男性監督はすでに退任しているそうですが、大事になるまえに逃げたのではないかと疑いたくなります。
何より驚いたのが、うさぎ跳びという非効率的で怪我のリスクが高いトレーニングを令和の時代にやっていたということです。
指導方法のアップデートはしないんでしょうか?
時代の流れを無視し、自分の指導方法が正しいと信じて疑わない指導者も淘汰されてほしいです。
中学空手部で監督が体罰 - うさぎ跳び250回、高知https://t.co/maxz5wpQ0p
— 共同通信公式 (@kyodo_official) April 28, 2023
小2男児にヘッドロック&逆さづりの体罰
こちらの体罰は堺市の小学校で起きました。
2022年4月から2023年2月にかけて、40代男性教師が特別支援学級の2年の男子児童の足首を持って逆さづりにしたり、ヘッドロックをしていたようです。
悪質なのが、学校の聞き取り調査に対してこの男性教師は体罰を否定し、体罰の発覚を遅らせていたことです。
現在堺市は教師の処分を検討中とのことですが、東京都等では体罰での懲戒免職も処分の量定上は認められておりますが、堺市の場合、「堺市教職員の懲戒処分の基準に関する規則」によると最も重くても停職までのようです。
堺市の「堺市教職員の懲戒処分の基準に関する規則」を見直すべきではないでしょうか。
参考:堺市, “堺市教職員の懲戒処分の基準に関する規則”, https://www.city.sakai.lg.jp/reiki/reiki_honbun/s000RG00001371.html#e000000138
小2男児に「逆さづり」や「ヘッドロック」 担任だった教諭を処分へhttps://t.co/59lcvlHLLw
— 朝日新聞デジタル (@asahicom) April 28, 2023
別の児童の保護者から市教委に連絡があった際は、学校が「指導の範囲」と判断したため、調査しませんでした。
被害児童の保護者から市教委に訴えがあり、弁護士による調査が始まりました。
体罰禁止はいつから?
体罰自体は昔からあり、度々ニュースにもなり、その度に問題視されてきました。
それでは体罰が明確に禁止されたのはいつなのでしょうか?
学校教育における体罰は、明治12年制定の「教育令」で禁じられたのが始まりのようです。
その後、体罰は1947年制定の学校教育法第11条で禁止されました。
私が生まれるはるか前から禁止のはずなんですが、未だに体罰があるってどういうことなんでしょうかね…(^^;
それだけ教育現場が荒んでいるということなのでしょうか…。
ちなみに親の体罰禁止は、2019年6月に成立した児童福祉法の改正法において、体罰が許されないものとして法定化され、2020年4月1日から施行されました。
親の体罰禁止が2020年度になってから法制化されたのは意外でした。
体罰の定義について
どういった行為が体罰に該当するのか気になるところだと思います。
体罰については、文部科学省から学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例として以下のような事例が紹介されています。
○身体に対する侵害を内容とするもの
・体育の授業中、危険な行為をした児童の背中を足で踏みつける。
・帰りの会で足をぶらぶらさせて座り、前の席の児童に足を当てた児童を、突き飛ばして転倒させる。
・授業態度について指導したが反抗的な言動をした複数の生徒らの頬を平手打ちする。
・立ち歩きの多い生徒を叱ったが聞かず、席につかないため、頬をつねって席につかせる。
・生徒指導に応じず、下校しようとしている生徒の腕を引いたところ、生徒が腕を振り払ったため、当該生徒の頭を平手で叩(たた)く。
・給食の時間、ふざけていた生徒に対し、口頭で注意したが聞かなかったため、持っていたボールペンを投げつけ、生徒に当てる。
・部活動顧問の指示に従わず、ユニフォームの片づけが不十分であったため、当該生徒の頬を殴打する。
○被罰者に肉体的苦痛を与えるようなもの
・放課後に児童を教室に残留させ、児童がトイレに行きたいと訴えたが、一切、室外に出ることを許さない。
・別室指導のため、給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き、一切室外に出ることを許さない。
・宿題を忘れた児童に対して、教室の後方で正座で授業を受けるよう言い、児童が苦痛を訴えたが、そのままの姿勢を保持させた。
引用:文部科学省. “学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例”,
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331908.htm(参照日2023-4-29)
体罰とは直接的に身体に罰を与えるだけではなく、トイレに行かせない、別室から出ることを許さないようなものも体罰に該当することを知りました。
よく考えるとこれらは強要罪に該当するのでは?とも思いましたが、法律の専門家の方々から見たらどうなのでしょうか。
学校教育法では体罰は明確に禁止されておりますが、生徒に対する懲戒は認めています。
懲戒の事例としては以下のようなものが挙げられております。
認められる懲戒(通常、懲戒権の範囲内と判断されると考えられる行為)(ただし肉体的苦痛を伴わないものに限る。)
※学校教育法施行規則に定める退学・停学・訓告以外で認められると考えられるものの例
・放課後等に教室に残留させる。
・授業中、教室内に起立させる。
・学習課題や清掃活動を課す。
・学校当番を多く割り当てる。
・立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせる。
・練習に遅刻した生徒を試合に出さずに見学させる。
引用:文部科学省. “学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例”,
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331908.htm(参照日2023-4-29)
ここに挙げられている事例は確かにある種の見せしめとして効果はあるかと思いますが、教室内で起立させると言っても、それが長時間に及ぶ場合には体罰になってしまうのではないでしょうか。
やはり程度の問題も絡んでくると思います。
そして程度を決めるのが教師の裁量になってくるので、教師の人格が歪んでいると即体罰になりかねないので、懲戒事例になっているから何でもOKみたいな風潮にしてしまうのは危険だと思います。
懲戒事例を悪用する教師がいないことを願うばかりです。
体罰禁止の理由について
肉体的苦痛を伴う体罰が禁止されているのに異論がある方はいらっしゃらないかと思いますが、文部科学省がどのような理由で体罰を禁止しているかを調べてみました。
文部科学省から各自治体あての通知文「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)」の中に下記のような記載がありました。
体罰は、学校教育法第11条において禁止されており、校長及び教員(以下「教員等」という。)は、児童生徒への指導に当たり、いかなる場合も体罰を行ってはならない。体罰は、違法行為であるのみならず、児童生徒の心身に深刻な悪影響を与え、教員等及び学校への信頼を失墜させる行為である。
体罰により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの連鎖を生む恐れがある。もとより教員等は 指導に当たり、児童生徒一人一人をよく理解し、適切な信頼関係を築くことが重要であり、このために日頃から自らの指導の在り方を見直し、指導力の向上に取り組むことが必要である。懲戒が必要と認める状況においても、決して体罰によることなく、児童生徒の規範意識や社会性の育成を図るよう、適切に懲戒を行い、粘り強く指導することが必要である。
引用:文部科学省, “体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)”, 平成25年3月13日, https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331907.htm(参照日2023-4-29)
体罰により正常な倫理観を養えないというのは確かに同意できます。
また、力による解決を志向してしまうというのも納得できます。
暴力が全てを解決すると幼少期に教え込まれてしまっては、極論戦争ですべてを解決するような思想の人間が出来上がってしまうかもしれません。
体罰を用いてその場を収めようとする教師は、単に教師としての力量が無いから、体罰を用いて問答無用で生徒を従わせているとしか言いようがないと思います。
体罰の判断基準について
学校教育法上は体罰と懲戒の2種類の規定がありました。
それではこの体罰と懲戒の境界線はどこにあるのでしょうか。
先ほど紹介した通知文の中に以下のような記載がありました。
2 懲戒と体罰の区別について
(1)教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。この際、単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。
(2)(1)により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る等)、児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。
引用:文部科学省, “体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)”, 平成25年3月13日, https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331907.htm(参照日2023-4-29)
殴る、蹴るはもちろん体罰ですが、懲戒のつもりでも長時間の正座等の身体的性質のものは体罰になるようです。
これは先ほど申し上げた事例中でも記載がありました。
ポイントとしては、懲戒行為をした教員や懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみで判断しないと言うことです。
逆にこれは教員をかばおうとする思惑が強く働いた場合、第三者と言いつつ教員側に有利な判断をすることも考えられます。
組織的に体罰を隠蔽しようとする動きが感じ取られた場合は、懲戒行為を受けた児童生徒及びその保護者は、警察、法曹関係者、マスコミ関係者の助けを借りる以外に無いと思います。
体罰防止のガイドラインについて
調べてみたところ、文部科学省から具体的な体罰防止のガイドラインは公表されていないようですが、その代わり、各都道府県の教育委員会や自治体が体罰防止のガイドラインを作成して公表しているようです。
以下いくつかガイドラインをピックアップしてみました。
神奈川県:「体罰防止ガイドライン~神奈川からすべての体罰を根絶するために~」(平成25年7月), https://www.pref.kanagawa.jp/documents/10861/201307.pdf
長崎県:「体罰の根絶に向けてー指導力のさらなる向上を図るためにー」(平成25年5月), https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2019/05/1559119230.pdf
群馬県:「体罰に関するガイドライン」(平成22年7月), https://gunma-boe.gsn.ed.jp/wysiwyg/file/download/505/953
山形県:「体罰等の根絶と児童生徒理解に基づく指導のガイドライン~信頼される学校教育を推進するために~」(平成25年7月), https://www.pref.yamagata.jp/documents/4993/taubatsu_full.pdf
石川県:「体罰のない学校づくり STOP 体罰ー改訂版ー」(平成26年4月), https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/kyousyoku/documents/stoptaibatsu.pdf
沖縄県:「体罰の根絶と児童生徒理解に向けて~教職員のさらなる指導力の向上を目指して~」(平成25年12月), https://www.pref.okinawa.jp/edu/gimu/documents/handbook.pdf
共通点として、「根絶」という強い言葉がガイドライン名に入っているケースが複数見られました。
また、平成25年前後に作成されたものが多いことが分かります。
なぜ平成25年前後なのか気になって調べてみたところ、世間を騒がせた体罰事件が平成24年(2012年)にありました。
その体罰事件とは、「桜宮高校バスケットボール部体罰自殺事件」です。
この事件は大阪市立桜宮高等学校(現・大阪府立桜宮高等学校)2年のバスケットボール部主将の男子生徒(当時17歳)が、顧問の体罰を苦に自殺した事件です。
体罰を行った顧問の男性教諭は、チーム強化・プレー向上に体罰が有効な指導方法だと考えており、救いようがありません。
顧問の男性教諭は自殺した生徒の顔面や頭部を数十回殴打していたらしく、もはや傷害事件で逮捕のレベルです。
しかも生徒の自殺後に生徒の自宅を訪れ、継続して指導を行う旨の了承を生徒の家族に取ろうとし、その自己保身の姿勢に家族が怒り、家族が刑事告訴に踏み切りました。
体罰を行うような教師はやはり思考そのものが腐り切っているとしか言いようがないですね。
また、自己保身に走り、指導を継続することを当然のように考えているあたり、自分の指導方法に誤りがないと思い込んでいることが窺えます。
さらにはこの顧問の男性教諭は、学校に無断でバスケットボール部の寮を開設し、生徒から家賃を徴収していたというのですから呆れてしまいます。
無断でバスケットボール部の寮を開設していたことを校長から問われると、「気持ちが不安定で正確な事実は申し上げられない」と具体的な説明を拒んでいます。
つくづく自分勝手な人間ですね。自分勝手な人間だから体罰が正しいと思い込んで実行してしまうのでしょうけど…。
最終的に顧問の男性教諭は懲戒免職となり、暴行と傷害の罪で在宅起訴となりました。
裁判中にこの顧問の男性教諭は自殺するとは思わなかったと証言しており、もはや人の皮を被った別の生き物ではないかとさえ思ってしまいます。
有罪判決となりましたが、懲役1年の執行猶予3年となり、刑務所に収監されることはありませんでした。
2018年には元顧問に対して賠償金約4360万円を支払うよう大阪地裁が判決を下しましたが、その後支払ったかどうかについては不明です。
体罰はこの事件の前から問題にはなっていましたが、この事件のインパクトが強すぎて、各都道府県の教育委員会で一斉に体罰防止のガイドラインが作成されたのではないでしょうか。
本記事ではいつから体罰が禁止になったのか、体罰の定義、体罰の判断基準、体罰禁止の理由等についてまとめてみました。
学校教育における体罰は、明治12年制定の「教育令」で禁じられたのが始まりでした。
また体罰の定義としては以下のようなものでした。
・身体に対する侵害を内容とするもの
・被罰者に肉体的苦痛を与えるようなもの
桜宮高等学校の体罰を苦にして生徒が自殺した事件以降、体罰に対してだいぶ厳しくなったと思ったのですが、同日に3件も体罰関連のニュースを見ることになるということは、まだまだ教育現場における体罰に対する認識が甘いと言わざるを得ないと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。